人・組織で備えたい“トリの目” 〔第4回〕:30代、キャリアの行き詰まりを抜け出すには?
本コラムでは、TMW講師陣が、ビジネスにおいてトリの目を持つとは何か、それはどんな意味を持つかなどトリの目に関わる話題を扱ってまいります。
30代、キャリアの行き詰まりを抜け出すには?

1年ほど前にキャリアに関するこういう相談を受けた。相談者は30代前半のエンジニアの方で、「最近、仕事に嫌気がさしてきて困っている。作業は遅れがちだし、メンバーは思うようにやってくれない。上司は私に不満のようですけど、私は一生懸命やっているんですよね」という。「上司は認めてくれていないし、先が見えないというか、このままいくとどうなるんだろうと不安」と続く。ことばや態度からまじめさが滲み出ているような人で、「技術には自信があり、これまでは仕事面でも評価されてきた。このような状態になったのは最近で、特に小さなグループを任されたときから」と言う。
実は、このような「行き詰まり感」の相談は、入社10年前後の人から時々受ける。中には転職を考えている人もいて、ことの深刻さは様々だが、霧やもやがかかったようで先が見えないという共通点がある。このような状態を専門家は「キャリアミスト」*と呼んでいる。「なんでもいろいろやってみる」段階を越えたとき訪れやすい一つの転機だという。
霧がかかる要因は何であろうか。実際の霧は、海面と大気の温度差(ギャップ)が生じると発生しやすいらしい。キャリア上の霧については、自分のやっている(やりたい)ことと周囲の期待とのギャップが出始めた状態で、発生しやすいと私は考えている。これまでどおりやっているが、どうも変だな、うまく回っていないな、という状態である。そして、今回の相談者の悩みも実はそこにポイントがあった。今回の相談者は自らの技術を高めることは関心が高いが、メンバーをまとめることについては苦手意識があった。
この状態をどう打開するか。相談者は霧に気付くだけの力があるし、相談してきたのも、何とかしたいという気持ちの現われだろう。だが、こんなときは霧の中で眺めていてもあまりうまくいかない。闇雲に進み思わぬことになったり、一か八かで運良く抜けられても、疲れきってしまうかもしれない。このようなときは、霧がかかっている外側から事態を見ることである。そうすることで方向性や修正すべき点が見えてくる。つまり一旦立ち位置を変えて、今の自分や周囲を客観的に見てみよう(トリの目を持つ)という試みである。
「上司と一度じっくり話し合ってみたらどうでしょう」相談の場で私はそう提案してみた。周囲の期待とのギャップを確認できる手掛かりになるのではと思ったからだ。相談者もこのままでは前に進まないと感じていたようで、同意され、実際に話合いの機会を上司にもってもらうことができた。それは相談者が思っていた以上に効果的なものとなった。自分の考え、行動と上司やメンバーの期待とのズレを認識することができたからだ。トリの目で見るために上司の目をうまく活用することができたのだ。トリの目で見ると、メンバーと自分の位置が離れて、孤立している状況などが良くわかったという。また、上司からはそこを少し修正するヒントももらった。
半年後に状況を聞くと、「あれから、メンバーと毎日『10分間ミーティング』をやるようにした。コミュニケーションが良くなったおかげで、次に自分が何をやるべきか分るようになり、仕事も少しずつ回りだした」と表情も明るかった。また、自分の技術を他の人に教えることもおもしろく思えるようになってきたという。
今回の相談者は、仕事での行き詰まり感を、上司との話し合いを通じて自分を客観視することで、状況を打開し、また自らのモチベーションも向上させることができた。霧とトリの目を活用することで、キャリアにおいて一皮向けることができたケースである。
*『働く人のためのキャリアデザイン』 金井壽宏著 PHP新書
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