人・組織で備えたい“トリの目” 〔第5回〕:「○○にちがいない。」“たった一つの考え方”に潜む危険性
本コラムでは、TMW講師陣が、ビジネスにおいてトリの目を持つとは何か、それはどんな意味を持つかなどトリの目に関わる話題を扱ってまいります。
「○○にちがいない。」“たった一つの考え方”に潜む危険性

「いつも私が書類を出した後、上司は不機嫌になるんですよね。私を嫌っていますね」
「どのように不機嫌になるのですか?」
「チラッと見ただけで、書類を読もうともしないんです。そのあと、必ず、パソコンのキーを打つ音が大きくなります。バタバタと。すごく大きいんです。」
「なるほど。だけど、それがどうして、あなたを嫌っていることになるのでしょう?」
「だってそうじゃないですか! 当て付けに決まっています。今は、書類を出すたびに、ドキドキしているんですから」
ある相談者とのやりとりである。皆さんはこのやりとりを読んでどう思われただろうか。「相談者の思い込み?」そう思われた方も多いのではないだろうか。
このように人は自分にとってネガティブな状況おかれると、考え方(思考)の幅がより、狭くなってしまうと言う。
つまり、否定的な先入観にとらわれて、正常な情報処理能力に問題が生じがちになる*1のだ。例えば、同僚に仕事を頼んで、断られると、その同僚を「冷たいやつ」「自分を手伝いたくないんだ」と考え、断られた別の理由を探す機会を逸している。(例えは、急ぎの仕事で手が一杯だった、早く帰る用時があった、など)
この相談者のケースも、書類をきちんと見てもらえなかったという相談者にとって望ましくない状況が「上司は自分が書類を出すと不機嫌になる」「私を嫌っている」という考えを導き、その考えで頭がいっぱいになってしまった。
考え方(思考)は、気持ち(気分・感情)や行動、体にも影響を及ぼす。相談者は、その後書類を出すたびに不安になる、どきどきすると訴え、今では上司に書類を提出しずらくなり、溜めているのもあると言う。そして、それがまた気になっていると言う。
実は、ここで問題なのは、ある否定的な考えが頭に浮かんだことではなく、その考えを信じ込んでしまったことにある。そのため、不快な気分を強め、行動の範囲を狭めてしまった。
ここから抜け出すには、どのような工夫が必要だろうか。
それには、自分の頭に浮かんだ考え方を、一旦、外に出して、点検してみることが効果的である。
点検では、次のような質問を自分自身に投げかけてみると良い。
「他の見方はないだろうか?」
「本当にそうか、そう考える根拠は?」
「あの人ならどう考えるだろうか、対処するだろうか?」
「親しい友人がそのような状態だったら、何と言ってあげるか?」
自問自答により、別の見方、考え方が自然に浮かんでくる。そうすると、気持ちが違ってくるし、行動の選択の幅も広がってくる。
相談者にも上記の質問を参考にもう一度考えてもらった。
「書類はあとで見てくれるつもりだったのかも」「早く見てもらいたい書類は口頭で補足してみる手もありそうですね」「バンバンと音をたてるのは上司のクセ?」「他の人のときはどうなのか、ちょっと観察してみよう」などの考え方、そして、行動の選択肢がいくつか出てきた。せっぱつまった表情から、少し余裕が出てきた。
「たった一つの考えしかもっていないこと。それほど危険なものはない」
フランスの哲学者アランはそのように言っている*2。
ものごとには2つ以上の見方、考え方があり、そしてどのような見方をするかは選択可能なのだ。ネガティブな状況に置かれたときほど、一呼吸置いてみよう。そして、どのような考えが頭をよぎったのか掴み、そして、それに対して、自問自答することで、考え方のレパートリーを増やす工夫をしてみよう。
参考
*1「わかりやすい認知療法」マイケル・ニーナン他 二弊社
*2「変化の第一歩」ビル・オハンロン 金剛出版
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