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静かなる改革者

常務取締役 岩崎玲子

 先日、ある会社の研修で受講生から声をかけられた。

 「去年も先生の研修を受けたんですよ。そのときに紹介された本も読みました。コーチングスキルの本はよくわかりましたが、もう1冊は正直言ってピンときませんでした」とのこと。

 後者の一冊とはデブラ・メイヤーソンの『静かなる改革者』である。

 その会社は上意下達の一方通行のコミュニケーションスタイルが強く、受講生からは“上の階層に同じスキルを理解してもらわらないと、自分たちだけが学んでも現場では使えない”という声が上がっていた。

 そこで、会社の文化や上司がどうあろうと、自分が「こうありたい」「こうしたほうがよい」ということがあるのであれば、上司や会社を攻撃したり、傷つけたりすることなく、自分が大事に思うことを組織の中で実践することは可能であるし、それをしていくのが我々の役割ではないか、という議論の中で紹介したのが『静かなる改革者』だった。

 メイヤーソンは組織の変革を実現しているのは、カリスマリーダーだけではなく、組織の末端で働くひとりの小さな勇気ある行動からであることを、たくさんの実例で証明し、その戦略を紹介している。

 社員は組織に守られているが、同時にそこから制度やルールによって縛りを受ける。そのため、会社を大事に思いながらも不満を抱く状況に陥る。この矛盾によって、自分が大事に思う考えや行動は抑圧されるが、文化的なルールから「そうしたことは表出しないほうがいい」ことを入社初期に学んで行く。 この矛盾した感情からある人は逃げ出したり、反対に不満による怒りに任せて行動したりする。「何を言っても変わらないのだから、黙っていることが得策」と自己正当化するのだ。

 それに対し、静かなる改革者は日常業務を遂行しながら、組織に完全に同調しない立場から、あるとき組織や体制に対して闘い(提案)を挑み、組織に学ぶ機会を提供する。首尾よく小さな勝利を収めるか、例え理解されなくてもこらえて次の行動につなげる。現状維持と改革の折り合いをつけることで鍛えられ、組織にとって重要な存在になるという。

 「自分たちの挑戦がキャリアを傷つけることになるかもしれないことを知っている反面、黙っていれば自分の魂を傷つけることになると感じている」(引用P22)それが静かなる改革者だ。

 メイヤーソンによれば、静かなる改革者は3通りあるという。

    1 人種や性別など社会的文化的背景により「疎外されている」と感じている人々で、組織に受け
      入れられようと努力しながら、組織を変えようと葛藤し、自己防衛に走るタイプから組織変革
      に取り組む人まで幅広い行動をとっている。

    2 自分と周囲との違いは文化やスタイルの違いにあると考える人々で、組織に同調しない一部を
      保ちながら、順応できるよう自分を変えようとする。

    3 (社会的、文化的背景の違いは感じていないが)自らの価値観と組織のそれが対立している人々
      で、組織内で正当性を維持しながら、自らの理念に従って社会的な変革をもたらそうと奮闘する。

 ここから学べることは、

    1 性別や雇用形態、新規か中途か、高卒か大卒かといった社会的文化的背景の違いから、組織の
      現状に違和感を感じていそうな人たちの声に耳を傾けることだ。そこに向き合えば、チームの
      様々な人々が動き出すような「変化の道」があるかもしれない。勇気をもって耳を傾け、率直に
      話し合うことから改革の芽が見出せるかもしれない。ダイバーシティを重視する意味は、ここに
      あると私自身は考えている。

    2 立場に関わらず、会社に恩を感じ、貢献したいと思うからこそ「何か変だ」という自分自身の
      声に耳を傾けることだ。特に、管理職になり、王道にのっている人たちは、自分がどう思おうと、
      ある意味体制側ととることができる。従って自分の本当の声に耳をふさぎがちだ。それは組織の
      明日に結びついているか、心の中で考えてみる。その後、どうふるまうかは、同書にヒントがある
      ので参考にしたい。

 さて、先の研修受講生は、熱意あふれる男性管理職であったが、この本を読んで「ぴんとこなかった」とのことだった。メイヤーソンは米国人であり、米国の事例による本なので、文化的背景の違いがあってわかりにくい面があろう。しかし、この率直なコメントは私にとって大きな気づきとなった。むしろ多くの社員は組織の現状に自分の信念と反するような「違和感」を感じることがないのかもしれない。そのこと自体が悪いことはないのだが、「違和感」を感じないことには、改革の担い手にはなりえない、と見ることもできる。

 変革の芽をどう見つけるか。数々の失敗から私が学んだことは、組織を変えたいと思うリーダーや、我々のような外部支援者自身が「トリの目」を持ちながら(=状況を客観的に見ながら)社員や担当者の話を聴くことだ。結局のところ、組織が表出させていない「何か」は存在しているのであって、それを表出させる場をどうつくるかにかかっているのだ。

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