ASTD2007に参加して
6月2日から米国アトランタで開催されたASTD2007に参加した。1999年に次いで2回目の参加である。
■教育セッションのテーマに見る米国人材開発のトレンド
ASTDは主に教育セッションとEXPO(展示会)で構成されている。今年度の教育セッションのテーマは9つあった。
Career Planning & Talent Management (キャリア開発と才能ある人材のマネジメント)
Designing & Delivering Learning(学習を設計して、提供する)
Leadership & Management Development(リーダシップ、マネジメント開発)
E-Learning(Eラーニング)
Learning as a Business Strategy(事業戦略としての学習)
Facilitating Organizational Change(組織変革をファシリテートする)
Measurement, Evaluation, & ROI(測定、評価、研修の投資効果)
Performance Improvement(パフォーマンス改善)
Personal & Professional Effectiveness(個人と専門性の効果性を高める)
このセッションのテーマを99年との比較において、考えてみたい。

【図1】教育セッションのテーマ
大会プログラムの情報から推察し、対応づけしてみると上図のようになった。その中で着目したいのは、99年当時はCareer Development やLeadership Developmentというカテゴリーがないことである。例えば、キャリアについて、99年は「4時のフォーラム」という別枠にキャリア開発のセッションが設けられている。競争力の鍵は優秀な社員を引き止め、活かすことであり、そのためにキャリア開発が重要であるというメッセージは今と変わらないが、今年は教育セッションの1テーマに「格上げ」されている。それだけ、重要テーマになっていることだと思う。逆に99年当時はWorkplace Issuesとして、メンタルヘルス、燃え尽き症候群、ワークライフバランスなどが取り上げられていたが、こうした問題は今年は他のテーマに吸収されており、影を潜めたという印象である。また、99年のOrganizational Development は、リーダーシップ開発や組織文化等を包括的に含んでいたが、今年はFacilitating Organizational Changeとして、組織変革を促進するという具体的な枠組みの中、人事担当者やコンサルタントが、どうしたらうまくいくのかと展開方法やファシリテーションのやり方を学びに来ていると感じた。組織変革のファシリテーションは米国企業の身近な問題になっており、かつ、試行錯誤しているテーマなのだろう。
この変化の背景はただ一つ、ビジネスのサイクルが早まり、生き残れる戦略や商品を生み出すのは社員だという強い認識だろう。よい人材をいかに引きとめ、学びの場をつくり、その知恵を利益に結びつけるかが、企業や関係者の関心事なのだ。
■ジェネラルセッションのメッセージ
大会の目玉スピーチは3つのジェネラルセッションである。3日目に登場したのは『ビジョナリーカンパニー』のジム・コリンズ氏だ。今後必要なことは①第5水準のリーダーの育成、②正しい人をバスに乗せる、③周囲の人に自信を取り戻させることだと言っていた。特に3つ目のメッセージは力が入っていた。自ら周囲の人に弟子入りし、そして自ら周囲の人の師匠になれという。ジムの「組織を変えたければ自分が変われ」という熱い語りに、多くの人事担当者やコンサルタントが鼓舞され、勇気づけられていたようだ。
翌日登場したのはFerrazzi Greenlight CEOのキース・フェラッツイ氏である。こちらも大きなアクションで部隊を動き回り、熱いスピーチだった。テーマ『Relationships for Success(成功のための関係づくり)』の通り、成功には人間関係が大事であり、ネットワークづくりをするためにはオープンになれ、と言っていた。自分の弱みを見せて、相手に「手伝わせて」あげるのだ。そして、成功させたい人に心から支援することだと。
最後に、大会のフィナーレを飾るセッションにはThe Gallup Organizationのトム・ラス氏が登場した。ギャロップによると、社員のエンゲージメントが高い企業と低い企業では、一株利益の増減に大きな差があったという。そして、残念なことに、会社にエンゲージしていない社員は年々増加しているとのことである。そこで、社員をエンゲージさせるリーダーシップ行動を7つ紹介していた。例えば、正しい仕事を与える、強みに焦点を当てるなど、語られた内容は基本的なことであったが、データに基づいたスピーチは説得力があった。
3つのセッションがともに戦略や手法、大きなシステムの話ではなく、人間関係のもっともベーシックなあり方をメッセージしていた。そして周囲を変えたければ、自分が変われ、自ら質問して教えを請い、周囲を見渡して手を差し伸べろと訴えていた。出発点は「自分自身の認識を変える」ことなのである。これは当社が研修で社員に伝えているコンセプトそのものであり、共感できるものであった。同時に、このメッセージが繰り返されるという事実に、「理解」「実行」することがいかに難しいかを改めて突きつけられた気がした。
■なかったもの ASTDに参加して、今当社で関心を持っているもので、なかったものがある。それは次世代リーダー候補者に提供している「戦略思考」「マーケティング」「アカウンティング」といった研修についてのセッションである。米国にはMBA保有がリーダーの前提としてあり、会社が集団に教育するということがないのだろうと思う。さらに、大事なことは経営者は実践で磨かれていて、そうした人材が流通していることもあるだろう。また、今回米国企業の人事責任者たちと話をしたが、米国では経営者の選抜、育成が人事の重要事項であるが、管理職以下は採用から育成までラインに任せているとのことであった。若手社員のマナーや活性化策、あるいは技術系社員の「技術知識の補講」を行わなければならない日本企業は非管理職への関心も高いが、上位にフォーカスして下位をマネジメントする米国との視点の違いを改めて実感する機会となった。
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