メディア掲載・講演実績

成果を生み出す個と組織を育てる

月刊「Business Research」誌2004年12月号<企業研究会>より加筆・修正、転載
常務取締役 岩崎玲子
1.環境変化への対応を目指してトッパンマインドウェルネスの誕生

 凸版印刷は創業約100年の印刷会社です。これまで比較的順調に伸びておりましたが、厳しい競争環境の中で価値創造に向けた新たな事業やビジネスモデルの模索が続いています。従来とは環境が変化しているという状況認識、そこではこれまでとは異なる能力・スキルが必要であるという変化を「自らのこと」捉えることの難しさに、現場リーダーの発揮するリーダーシップが奏功する場合もあれば、職場の士気低下の声も聞くようになりました。私どもトッパンマインドウェルネスはこうした背景の中で、いかに個人がモチベーションを高く維持し、自律的に能力を高め、発揮するか、個人と組織の成長を促進することを使命として誕生しました。

 当社は、凸版印刷の100%出資で2002年4月設立の社内ベンチャーです。認知心理学および経営行動科学の理論と技術を基盤とし、企業の人材を育成して組織の成長につなげるための教育・コンサルテーションを行っています。トッパングループへのサービス提供からスタートし、現在はグループ以外のお客様にもサービス提供しています。

2.組織活力を高めるプロセス

 組織活力はどのようにしたら高まるのでしょうか。私たちはこれまで紹介されている理論を調査し、東京国際大学の角山剛教授の指導の下、「活力向上プロセスモデル」という仮説を構築しました。簡単に言うと、組織に属するメンバーの「自分の能力・スキルに対する評価」が高ければ、つまり自分に自信があれば、その結果、「組織や仕事」に対する評価も肯定的になり、組織の活力は高くなる、というものです(図表1参照)。

 トッパンマインドウェルネスでは顧客企業の組織風土を診断する『仕事と職場のチェックリスト』という調査を行っています。過去のデータを分析してみると、組織活力を高めるためのプロセスは支持されていますが、最近新たに分かってきたことがあります。

 前述の通り、活力向上のスタートラインは組織構成員の「自分の能力・スキルに対する評価」となりますが、その中でも特に『自分のコミュニケーション力』への自信の高さが最初の出発点だということです(図表2参照)。コミュニケーション力に自信があるほど、「問題解決力」や「戦略実現力」といったコミュニケーション力以外の自分の能力スキル(以後『自己開発力』とする)が高くなっているのです。『自己開発力』が高くなると、仕事に対する「達成動機」「目標へのコミットメント」「自ら変革に挑戦する意欲」「やりがい」といった『仕事に対する意欲』が高まることも分かりました。仕事に対する意欲が高まれば、仕事や職場との相互作用も高くなり、その結果『組織に対する見方』が肯定的になるのです。『組織に対する見方』とは「ビジョンの共有度合い」「組織の戦略性」「チームワーク」「上司への信頼性」「制度への納得感」といった項目です。組織への見方は、「仕事への満足感」「熱意」「組織や仕事への愛着」といったものを合わせた『組織活力』と密接に関係しています。そして、『組織活力』が高くなると、『仕事への意欲』がさらに高まるという循環に結びついているのです。

3.活力が高い組織、活力が低い組織の特徴

 活力が高い組織はどんな特徴があるのでしょうか。これまでの取り組みから次のような特徴が明らかになっています。

  1 組織のビジョン・戦略が明確で、メンバーがよく理解している
  2 上司に対する信頼感があり、上司が部下育成をおこなっている
  3 チームワークや人間関係が円滑である
  4 組織の中で、経験を共有したり、知恵を出し合って一緒に問題解決をしている
  5 評価や給与、労働時間に対する納得感が高い

 逆に活力が低い組織は、これとまったく逆の結果がでています。すなわち、

  1 ビジョン・戦略が見えない
  2 上司に対する信頼感が低い、部下に対する関心や育成が希薄になりがち
  3 チームワークや人間関係がよくない
  4 組織の中で学びあったり、問題解決をする機会が少ない
  5 評価や給与、労働時間に対する不満が大きい

 つまり、指示命令型のマネジメントの中で、あまり意見を聞いてもらえず、組織や自分がどうなるのか、先が見えない状態で不安や不満が高く、やらされ感の中で疲弊している状況が推察されます。これらの項目はすべて「組織への評価」項目であり、これが組織活力を左右することは明白です。そして、これらの項目は、すべて職場のリーダーが大きくかかわる要素であることが分かります。

4.組織活力向上に求められる管理者のマネジメント

 では、リーダーの影響は本当にあるのでしょうか?われわれは一部の組織で管理者に対して180度調査(部下による上司評価)を実施していたため、部下からの評価でみた上司のコミュニケーション力とその部下の自信の強さについて検討をしてみました。部下によるコミュニケーション力評価上位30%と下位30%の管理職を抽出し、それぞれの部下の自己開発力を比較すると5%水準で有意差があることが分かりました。つまり、管理職のコミュニケーション力が高いと部下の自己開発力への自信が高くなることが分かったのです。部下が「自分は問題解決ができる」「戦略的に考えられる」と自信を持つには、「上司は自分を育ててくれる」「自分は認めてもらっている」と部下が感じる上司の対応が必要なのです。

 このことは、米国の心理学者エドワード・デシの内発的動機付けの原理にかなっています。すなわち、上司が部下に仕事の目的、やり方を話し、話を聴き、熱心に指導すれば、部下は「上司は自分を見ていてくれる」「自分を受け入れてくれている」という『受容感、信頼感』を高めます。そして、上司と対話をすることで仕事への関心が高まり、その仕事を自分でやってみて、それができたときに「できた」ということが上司によってフィードバックされれば、「できるんだ」という『有能感』に結び付きます。できなかったときに、上司が一緒に考えたり、間違いについて指導したりすれば、それが学びになり失敗しても興味は薄れず、学習することができるため、次の挑戦につながります。

 そのとき、鍵になるのは『自律性』であるというのはデシをはじめ多くの心理学者が指摘しています。つまり、自分で決める余地をつくることが動機付けには重要です。いくら自信があっても、すべて強制されてやらされていたら、興味を持って自分から動こうという動機にはつながりません。スキルが低い部下であれば、自分で選べるように選択肢を提供する、スキルがある部下であれば、やり方をすべて任せるなどして「自分で決定した」という感覚が持てるようにサポートすることが大切です。

 デシはその著書『Why we do what we do』( 日本語訳『人を伸ばす力』(新曜社))の中で取り入れ(introjection)と統合(integration)という概念を紹介しています。取り入れとは「ルールを噛み砕かずに丸ごと飲み込むこと」であり、統合とは「ルールをよく噛んで消化すること」だと紹介しています(同書p127)。これはわれわれが言うところの「腹に落とす」プロセスであると考えます。すなわち、部下が「なぜこれをするのか」自分のこととして理解すれば、いやいや、あるいは訳も分からずにやるのではなく、自分のこととして仕事に向き合うことができ、それはやがて自ら考えて行動してゆく内発的動機につながってゆくことが考えられるのです。内発的動機付けを高めるということは、主体的に考え、行動する原動力を高めることになります。まさに、企業や管理者に求められるマネジメントではないでしょうか。

5.活力が改善した組織の事例

 ある企業で、職場と仕事のチェックリストを1年半おいて2度実施したことがあります。1回目と2回目の組織活力を部門ごとに比較して、組織活力の変化を見ることにしたのです。そして、活力が最も改善した組織の管理職(課長)にインタビューをしたところ、次のような話を聞くことができました。

 今のチームは品質向上のために生産技術を強化する目的で、製造部門出身者で作ったチームです。製造ラインでできないことを身につけて、頼られる存在にならないとだめだと考えました。そのため、部下には「この人がいないとだめだ」と思われる存在にならないといけない、と伝えてきました。そして、そのために学びたいスキルあがれば、どんどん言って来て欲しいと伝えていますし、実際に外部講習にも参加させています。講習から帰ってくれば、参加者の名字をつけて、○○塾と称して勉強会を開 きます。また、専門の技術をもった人間を技術支援という形でチーム内に入れ、日々学べる環境をつくりました。問題発見が大事なので、間違ってもよいから気付いたことは自信をもって意見を述べるように言っています。新ラインができるのですが、今のラインを守りながら新ラインも含めて自分達が工場を支えるんだという気持ちを日々伝えています。課員とは休憩やアフター5に、仕事以外のことも含めて話をしています。何気ない話に耳を傾け、課長だからといって距離感を感じないように、日常で工夫しているつもりです。

 これを読むと、部下個々人に興味を持ち、話を聴くことにより「何を話してもいいんだ」という安心感を持てるよう課長との『信頼関係』をつくっています。そのことで、部下は組織での位置付けが高まり、安心し、自尊心を保ち、話しをしたり主体的に仕事に向き合ったりできるようになるのです。そして、組織目標(工場を支える)と部下個人の能力開発(人に頼られる存在 等)を結び付けて話をすることで、環境との関わりで『有能』でありたいという欲求を満たすことに成功しています。最後に、なぜ製造ではできないことを身につける必要があるのか、仕事を自分と結びつけて(一体感をもって)腹に落とすように話をしていることで、『自律的』な動きを生み出しています。活力が向上した組織の管理者の特徴はやはり、デシの3つの要素に合致しています。

6.管理者に求められる「戦略思考・問題解決力」

では、管理職は部下の話をよく聞き、部下を認める等、人間関係に配慮していればよいかというとそうではありません。上記のようなコミュニケーション力の背景に、上司自身の問題解決力がなければ、真の意味での部下の信頼獲得には至らないでしょう。当社で提供しているコーチング研修でも、部下との人間関係は良好であるものの、仕事の問題解決力が弱く、部下の課題に対して精神的な支援だけに頼りがちの管理職が散見されています。これでは、部下は課題に対処できず、辛い状況に陥ります。これまでのやり方で成績を上げていた管理職も、効果的な問題解決を促進する様々なビジネススキルを強化し、業務に適用していく必要があります。管理職といっても、答えが出しにくい課題も増えています。しかしながら、部下に向き合う時には、仮説としての解を管理職が持っていることが前提 となります。自分は仮説(解決策)を用意しているのか、またその仮説づくりの手法が従来のやり方だけで本当によいのかを、管理者自身がよく考える状況を作ることが必要でしょう。

7.活力と業績の関係~鍵をにぎる部門長の「戦略立案力」

 活力が改善した組織と悪化した組織で変化した要素を見てみると、やはり前述の「組織への評価」がもっとも大きく影響していました。扱っている商材とその業界環境の変化、そして、担当職種(営業、製造、管理部門等)による影響については今も引き続き調査中であり明言はできませんが、競争環境が激しく、その中で業績が落ちた事業、組織においては悪化傾向にあることが観察されています。しかし、業界ごとの環境変化は事業活動の前提条件であり、これを不可抗力に位置付けてしまったら、企業としての主体的な取り組みを否定することに繋がります。企業はこうした環境に適応し、利益を生み続ける必要があり、それを可能とするのが「戦略」となるでしょう。業績が低く、活力も低い組織は、その要因として「ビジョン・戦略が見えない、共有されていない」という傾向があります。そして、実際活力が低下した組織の部門長(部長クラス)にヒアリングすると、環境変化が激しくて、どのような一手を打てばよいか見えていない様子が伺われます。たとえば「新しいビジョンをもって、設備導入を提案できればいいが、それが示せていない。どうせ提案してもお金は出してくれないだろうというあきらめもある」「何を主軸にするか、決めきれていない。決めればやれるはず」「人を増やしたいができない。とにかく頑張れと行っているが、これではなあと思う部下もいるだろう」といったコメントが聞かれました。また、「半期に1度本部方針を話します。毎月の会議ではあといくら足りないというように、数字を伝えています」というコメントは多かったが、これに対して、どのように上げるかについては方針として理解できる回答は極めて少ないという状況でした。つまり会社は何を目指し、部門に何を期待していて、それを実行するためにどのようにやっていくのか。顧客や競合の現状はどうなっているのか、背景を説明し、部下に納得させ、やり遂げるんだという自らの意志を持って説明するという行動は少ないと感じています。こうしたことから、管理職のマネジメント力とあわせて、部門長(部長クラス)の「戦略立案力」及びそれを含めたリーダーシップの強化が、今後の大きな課題であり、それは組織活力、そして業績に大きな影響を与えるのではないかと考えています。

8.活力向上に向けた取り組み(1)研修

 以上の結果から、トッパンマインドウェルネスは2つの方向で、業績向上に繋げるサービスを提供しています。ひとつは、部門長である部長層と第一線の管理職に対する研修です。

 部長層には会社の戦略を自部門の中期計画に落とし込むための戦略思考、事業計画策定、ビジョン構築といった研修を提供しています。講義型ではなく、講師がプロセスを提供し、それを自部門に落とし込んで実際に計画策定し、実践してまた研修の場で見直しをするという実践型のアクションラーニングが主流となっています。

 課長層および次期課長層にも同様に試みが増えていますが、これらの階層には基本スキルを知ってもらうことが重要なため、「問題解決」「会計知識」といった1~2日間の研修を用意しています。顧客によってはそれを組み合わせてアクションラーニング形式で運用するところもあります。

 トッパンマインドウェルネスの1番の強みはコミュニケーション力、特に『コーチング』と『ファシリテーション』スキルの教育です。自分で考えた戦略や計画をいかに部下に話して、納得・理解させるか、これが大きなポイントになります。当社の調査によると、成果を上げる管理職と成果が上がらない管理職の違いは「何を言うか」ではなく「どういうか」にありました。つまり、中身ができるだけではだめで、それをチームに実行させるスキルが必要なのです。そうしたコミュニケーションプロセスとして、成果を上げる話し方(コーチング)、会議の仕方(ファシリテーション)をあわせて提供し、実行力のあるスキルアップを目指しています。4章で述べたエドワード・デシの内発的動機付けが生じるように話していただくために、その原理を踏まえたコーチング手法を提供しています。これは米国で30年前に開発され、数々のグローバルカンパニーで採用されている手法です。もともとは成果を上げる管理者行動を観察して作ったモデルですが、成果を上げている管理者は理論にも適う行動をとっています。特に重視したのが、実用性です。部下に話をするときの「コツ」や「留意点」がモデルとなっているので、後から何が悪かったか振りかえったり、次の会話の戦略をたてたりできるという評価を受けており、受講した管理職は手帳にモデル図を忍ばせているようです。

9.活力向上に向けた取り組み(2)勝てる組織づくりに向けた支援

研修はやりにくい、という事情を抱えた組織には、トッパンマインドウェルネスのコンサルタントがその組織の議論を進行することで、問題解決を支援することもあります。例えば、ある会社では社長が交代し組織変革を効果的に推進するために、トッパンマインドウェルネスがビジョンづくりのワークショップを支援しました。社長がいないところで十分に話し合いをしてほしいというご要望でした。これまで社員が集まって、会社について考える機会はなかったため、最初は話し合い自体に不安と抵抗もありました、われわれはまず話し合う環境づくりから始め、会社の未来について、プロセスや議論のフレームを提供しながら話し合いを促進していきました。当社は議論の中身について解決策を提示するわけではありません。むしろ、社員の皆さんが思ったことを話せる環境をつくることと、主題について話しているか、話し合いを統制することで効果を高めるように働きます。狙い通り、参加者からは話し合うことの利点、おもしろさが感想に上がりました。社長からは「ようやくこれで組織を動かせる基盤ができた」という感想を聞きました。話し合いはまだ続いています。

 また、別の会社では『仕事と職場のチェックリスト』において組織活力が非常に低いと診断され、部課長が集まって現状について討議することになりました。ここでは、当社はデータからみる現状についての解説を提供し、それについて、参加者が思うことを自由に意見できるように話し合いをリードしました。その結果、様々な懸念や問題点が提示され、結果的に部課長が自ら取り組まなければいけない項目をクリアにし、共有することができました。このように、『勝てる組織』をつくるために、まずはオープンに会話ができる関係こそが大切だと感じています。

10.成果を生み出す個人と組織を育てる

 厳しい競争環境の中では、個人戦で成果をあげることは難しくなっています。そのときに必要なのは組織力です。何を大事に思うか、組織の価値観と個人の考えを早く整合させられる組織が強い組織であると感じています。そのことで、モチベーション(活力)と能力・スキル(業績)を高めることが可能となるからです。そのプロセスはリーダーシップそのものです。つまり、客観的に事実を並べてみたら、現状はこのようになっているということを広い視野で示すことができ、部下やメンバー1人ひとりが「なるほどそういうことか」「このままいくとまずいな」ということが分かるように提示し、その上でどういう方向にいくのか、戦略や計画を立案できる必要があります。部下個々人のパフォーマンスについても、「自分は正しい」と思ってやっていることが、客観的にみればひとりよがりであったり、周囲にマイナスの影響を与えていることを、納得できる事実を積み上げて理解させていく観察力、情報収集力、論理構築力そして忍耐力が求められるのです。そのために、組織の管理者・部門長層のスキルを提供することは急務であると痛感しています。

 また、組織での対話のあり方を見直して、「オープンな組織」を意図的につくることの効果も実感しています。「発言すると損だから」とか「本音で話すことは普通しない」という状況では、メンバーが本当にコミットして業務にあたる環境は生まれません。どうなりたいのか、どうしたいのか、ひとりひとりが課題にのめりこむ(統合される)状態で考えをぶつけ合わない限り、最善の計画ができないし、できても実行されないでしょう。社員の力を生かすには、オープンなコミュニケーションがとれる環境をつくることが大変重要です。

 このように自らを客観視させるためのリーダーシップスキルとオープンな会話ができる組織づくりの2つのアプローチによって、われわれは成果を生み出す個と組織の育成に貢献していきたいと考えています。

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