お客様インタビュー ・ 第6回
   日本農薬株式会社 様



メンター育成による若年層の即戦力化が、

変化に対して自ら学び行動する風土をはぐくむ
 


【今回のお客様】

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 日本農薬株式会社 様
 人事部の皆様
 課長      北崎昌彦 様
 課長補佐    江原義久 様




 インタビュアー:
 株式会社トッパンマインドウェルネス 岩崎玲子

 
 左から 岩崎 北崎様 江原様

※本文中の敬称は省略させていただきます。


人材育成の背景と課題

   

岩崎:
本日はどうぞよろしくお願い致します。最初に人材育成の背景として、御社をとりまくビジネスの状況や外部環境についてお聞かせください。

江原:
ビジネス環境の変化が日増しに大きくなっています。国内外で業界再編が進んでいて、規模も流通も商習慣も変化しています。国内マーケットは農耕地が減少を続ける中で、当社商品(農薬)のユーザーである農業従事者の高齢化と多様化が進行しています。海外マーケットは、食糧増産の要請が強まる中で、農耕地面積は年々拡大しており、マーケットの成長を日々実感しています。一方、化学物質を扱うメーカーとして、環境負荷を考慮したビジネスモデルを構築する社会的要請も近年特に高まりつつあり、当社もレスポンシブル・ケアレポートを公開するなど、情報発信を通じて社会と対話をする事に力を入れています。また、上場企業として、コンプライアンスやコーポレートガバナンスに対する社会的要請をしっかり果たす事が、企業存在の大前提と考えており、これも比較的近年の新しい外部環境変化だと捉えて、積極的に取り組んでいます。 安全性が高く環境負荷の低い農薬は、高い研究開発力があってこそ生み出すことができるとても付加価値の高い化学製品であり、食糧増産という地球的課題に直接貢献する農業資材でもあります。新規有効成分をゼロから生み出すことができる農薬メーカーの使命として、世界のニーズに応えていきたい。ここ数年は、「グルーバルニッチを目指す」という経営方針が掲げられるようになりましたが、世界市場を前面に出した方針が出てきているのも当社の状況を表していると思います。

岩崎:
話をお伺いして「ビジネス環境の変化」と「グローバル展開」という2つのポイントがあるように感じました。この2つのポイントに対して、御社の人材育成はどのような方針で行っていらっしゃいますか?

江原:
社員一人一人が自ら考え行動し、人も組織も変わらなければならないというのが、経営からのメッセージです。環境変化に対し、ポジティブに対応できる人材と組織を作っていくことが人事部の課題の一つだと認識しています。

北崎:
「グローバル展開」をサポートする人材育成の一つの具体策として、海外駐在員候補者へのガバナンスやマネジメント研修の実施を予定しています。これから世界各地の事業所で現地従業員のマネンジメントを務める海外駐在候補者に対し、マネジメントスキルはもちろん、異文化の中にあっても能力を活かし、発想豊かに行動できるような人材になってもらうべく、能力開発を促す為の導入教育をしたいと考えています。

岩崎:
変化に対応するために、お二人が考える人材育成の課題をあげるとするとどのようなものになりますか?

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             江  原 様

江原:
当社はおよそ10年前に早期退職を含むリストラを行っており、現在の30歳代後半から40歳代前半にあたる中堅層が少ない人員構成をしています。そのため、組織やチームぐるみで新人を育成する余裕と、OJTを基礎にして新人を育成する感性のようなものを失ってしまった歴史があります。こうした風土環境の中、OJTによる新人の能力開発に組織として充分に手が回らず、個人の成長を本人の自発性だけになんとなく依存してしまっている現状があり、人材育成の手段に厚みがなくなっています。本人の自主性、自発性はもちろん大切ですが、育成手段としてはもう少し多様なオプションを準備したいと考えています。

北崎:
江原が述べた過去の経緯により、当社には“少数精鋭”でやっているという考えがあり、新人にも仕事がどんどん回ってくるという点では、実践を積みながら成長できる良い環境だと思います。しかし、農薬ビジネスの特徴として、比較的専門性が高い仕事内容が多いため、日常の業務もタコツボ化が起きやすく、その結果、新人をみんなで色々な方面から目配せするムードに乏しくなりがちなリスクも抱えています。新人が、上司や先輩社員とかかわりやすいように、人材育成の仕組みを作る必要があると考えます。

メンター制度/メンター研修について

   

岩崎:
若年層の早期戦力化が課題となったという背景のもと、御社にはメンター(新入社員の育成担当)研修を採用いただきました。

江原:
部門長や新人の直属上司にも、新人育成により深く参画して欲しいという願いから、メンター研修を始めました。研修の実施内容に関して情報共有を推進し、部署ごとの育成でも活用してもらおうと取り組みました。こうして、人事部だけでなく、上司や先輩社員も新人育成に積極的に関ってもらう仕組みを作ることができたと考えます。

岩崎:
育成される側である新人の課題はどんなところだと思われますか?

江原:
研究職に関していえば、仕事内容が学生時代の研究室のものと大きく変わらないためか、学生から社会人になったという気持ちの切り替えが出来ていない場合が見られます。報連相、仕事の締め切りやビジネス面でのコストを意識した行動など、社会人の基本行動を、日々の仕事の中で実践し、早期に企業研究員としてのプロ意識を身に付けて欲しい。

北崎:
最近の新人の傾向として、思考の範囲や視野が狭いと感じてしまうことがあります。新人の視野を広げ、豊かな発想で環境変化に柔軟に対応できるような人材になるよう、現場の育成と歩調をあわせながら人事部もこのテーマに取り組みたいと考えています。

岩崎:
視野や視座、事業全体を見る視点などは、色々な会社でも共通している課題だと思います。 それではメンター制度についてお伺いします。御社はメンター制度を5年前に導入され、新人と同じ職場の先輩がメンターを務められています。御社ではメンターの役割をどのように規定されているのですか?

北崎:
メンターに期待している役割は、不安を抱える新入社員への心理的な相談役と、新人への「社会人としての教育係」が主です。新人と密接にコミュニケーションをしてもらい、相談を受けたり、会社の情報を提供してあげて欲しいと期待しています。

江原:
よく言われることですが、核家族化、メール世代になって、多様な年齢層、人員構成に対する新人のコミュニケーション力が変化しています。こうした新人の変化をカバーする為には、上司だけではなく、メンターを含め職場全体で新人に手を差し伸べなくてはならないと考えました。新人が上司だけではなく、身近で年齢が近い先輩にも話ができるような仕組みを作って、新人の心理的な負担も和らげながら、うまく会社の組織・仕組みを学んでもらいたいという期待があります。

北崎:
制度の導入当初、メンターは自身の通常業務に加え、新人教育(育成補助)も行うという役割で選任されました。しかし、上司でもないのに育成の一環としての新人の業務目標まで設定し、管理するというのはメンター側の負担が大きかったと思います。その後、メンター・と上司の役割分担については試行錯誤があったのですが、御社からアドバイスをいただいて、あくまでメンターは相談役、という位置付けを明確にしました。困った部分で何でも相談できるような「お兄さんお姉さん」という役割に2010年から変更し、メンターが活動しやすくなり、意欲も向上したと感じています。

岩崎:
業務の指示や指導は基本的に上司が責任持って行い、新人が業務を行ううえで困った時や分からなかったりした時はメンターが、新人をフォローしていく体制をとったのですね。

北崎:
その通りです。メンター自身が自分の新人時代を振り返り、「人材育成の必要性の理解」が進み、「擬似マネジメント」を体験する事により、新人の成長のみならず、メンター自身が自分の成長も見据えてメンター制度へ参画する意識が芽生え、仕組みがうまく回ってきた事も、有効な点と感じます。

メンター研修の内容

   


研修は日本農薬様の制度や参加者の声を内容に反映させて組み立てて来ました。

2009年のメンター研修
   ・対象者に対し「指導係として役割認識とスキル(目標設定とコミュニケーション)」習得を目的
    とした「メンター研修」を4月に提供しました。
   ・目標設定のパートでは、日本農薬様で運用している評価項目に準拠して内容を説明しました。

2010年のメンター研修
 前年の実施内容の振り返りから以下の点をカスタマイズして行いました。

 ①:研修実施月を4月から8月に変更
   ・新入社員が配属される前に研修を実施していたため、実感がつかめないという声が参加者から
    あがりました。このため8月であれば、メンターが新人と相対する期間を1~2ヶ月くらい設定
    できるという想定のもと、研修の実施時期を変更しました。
   ・メンターの事前教育として実施している通信教育の内容との内容重複をさけるために、事前に
    テキストをもらい、内容確認を行いました。8月の研修冒頭では通信教育内の課題に対する振返
    りのセッションを行い、理解の共有を行いました。

 ②:先輩メンターとの対話
   ・メンターを経験した先輩社員に来てもらい、車座の座談会を設定。先輩の経験談から、役割認
    識を探求していくことを狙いとしました。

 ③:上司からメンターへの手紙の実施
   ・メンターを務める方の直属の上司の方に、部下マネンジメント経験をはじめて積むメンターへ
    の期待を、「手紙」という形で表現していただきました。手紙は研修当日に開封して参加者に
    読んでもらい、上司の期待の理解を促進しました。

岩崎:
2010年度は新しい試みとしてメンター研修の実施時期を4月から8月に変更しましたね。

北崎:
以前は4月、メンター選任後すぐに集合研修を実施していました。その時参加者から出た意見として、メンティー(指導を受ける新人)の顔も分からないし、どんな人かわからない人間を「メンターお願いします」といわれて研修させられてもぴんとこないという感想がありました。

江原:
メンティーが分からない状態で、研修でできることは一般論で終わってしまう。研修に外部講師を起用するのであれば、一般論をふまえつつ、個別の事情、実態に照らしたケーススタディーについての話を行った方がいいと御社からアドバイスを頂きました。そこでメンターの心構えなどの一般論は通信教育で学んでもらい、その後1、2カ月の間、メンターとしての活動をした後に、メンターみんなで集まって、実体験に基づく悩みや成果を出し合って共有する。そこで体系だったメンターシステムについて、御社から理論を講義してもらうという形にしました。経験をふまえて理論を学べる時期として適切なのが8月くらいかなと思いました。

 
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             北  崎 様


北崎:
人事としては配属後の新人の様子は気になるところです。「今頃どうしてるかな?」とか、「どんなふうに仕事をやっているかな?」とか気になるのです。メンター研修を運用して以来、直属上司ばかりでなく、メンターからも新人の状況について情報が寄せられるようになってきました。現場での新人情報、特にどんな風に社会人として育ち始めたかについては、とても貴重な情報です。情報の傾向や特徴を踏まえて、毎年冬に実施している新人フォローアップ研修の内容も、その年の新人に合わせて細かくカスタマイズし、成長が不足する部分に対して補強が出来るようにもなりました。メンター制度は、単にメンターシステムに留まらず、色々な施策に活用できるものがあり、新人にとってはもちろん、メンター自身や職場にとってもいいものだと思います。

江原:
制度の導入当初は、メンターに選任された方が「なんで自分がこんなことやらなきゃいけないんだろう?」とネガティブに受け止めることもありました。自分の仕事の他に、新人育成サポートという負担をお願いされるわけですから、ネガティブになってしまう気持ちは分らなくもありません。しかし、メンターを引き受ける事がメンター本人のモチベーションに悪影響を及ぼすのは好ましくない。それで本業にマイナスに作用したら本末転倒です。ですから、「メンター=面倒なもの」という認識が本人や社内に継承されてはいけないと考えていました。メンターに選任されることは、新人育成という会社組織にとってとても重要な役割の一端を担うことであり、またマネンジメントの疑似体験を通じて、メンター本人も大きく視野を広げ成長できるチャンスであるということを選任される人に伝えたかった。これを御社に伝えたところ、「上司からの期待を視覚的に表現したほうがいい」というアイデアを提示してもらい、上司からメンターへ期待を言葉に表した手紙を書いてもらうという方法がはじまりましたね。

岩崎:
新人の成長を間近に見れる喜びがあるのは、育成に関与できるメンターならではのこと。それに加え、メンター本人の視野拡大、成長が間違いなく期待できるという点が大切ですね。

メンター研修を実施して


岩崎:
こうした様々な工夫を施してメンター研修を行ってきましたが、受講者に変化はありましたか?

北崎:
御社と一緒にメンター研修を組み立てるようになってから、受講者であるメンターの意識が確実に変化してきました。研修中、みんなとても一生懸命に講師へ質問をしていた事からも、積極性が垣間見えました。「4月から7月まではこのように取り組んできたけど、いま改めて聴いて、今後はこういう風に取り組みます」という話が受講者から出る一コマもありました。受講者に対する意識づけ次第で、こんなにも受講態度が変わるんだなと驚きました。

江原:
従来の受講者の感想をみると、講師に関する意見が多く、どちらかというとメンターとしての自分を振り返るような意見は少数でした。御社で実施したメンター研修では、受講者が自分自身や自分のメンティーに関して記述するアンケート回答が大多数を占めるようになった。きっと明確な目的意識を持って研修を受講し、主体的に学んでくれたのだなと確信しています。


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               岩  崎

岩崎:
その変化の背景は何だと思われますか?

北崎:
御社からご提案いただいたように、研修時期を春から夏に変更し、メンターを少し経験させた後に集まってもらうというやり方が効果的だったと思います。受講者は既に現場でいろいろな育成体験をしていますし、悩みも成果もいろいろ感じていますから。

江原:
一言で言えば、百の理論より一つの実践であると思います。メンターになったという自覚やメンター経験自体もないまま座学研修で理論を詰め込んでもあまり効果は出ない。先ずメンター活動を実践して問題点を自分の頭で考えてみる。そこで悩んで、メンター自身が自分のアプローチとかやり方とかを反省して、自分自身に求められている「変化」を見出すという事を、研修前に経験した事が有効だったのでしょう。変化する事の重要さを痛感し、自分が導いた解を確認、または修正する絶好の機会として、夏のメンター研修に臨んで貰うというスケジュール設定は、御社のご提案がきっかけで出来ました。受講者の研修に臨む意識はとてもハイレベルになったと思います。また、メンター活動で苦悩し、自分で変化の必要性を見出し、研修での学習を取り入れながら変化に対して積極的に取り組むという一連の行動は、インタビュー冒頭に紹介した経営メッセージでもある「社員一人一人が自ら考え行動し、人も組織も変わらなければならない」という行動と方向性が一致しており、ここでも、当社メンター制度が、新人育成の枠を超えて、組織に対しポジティブに作用していると言えるでしょう。

岩崎:
受講者の受講後アンケートに、「体験から導かれた講師のコメントにリアリティがあった」という感想がありましたね。

北崎:
「何か困っていることありませんか?」という講師からの問いかけに、受講者が自身の体験に基づいて本音で講師に相談していましたが、それに対する講師からの回答が具体的で説得力がありました。私も、講師の回答からは、ノウハウの蓄積の厚みを感じました。講師自身の、経験に裏打ちされた豊富なアドバイスが、受講者に響いたのだと思いますし、また受講者が目的意識を持って研修に参加していた証拠だとも思います。

江原:
おかげさまでメンター研修は、当社の事情を踏まえた多くのご提案を頂き、カリキュラムを柔軟に組んで貰えた事から、とても効果的に運用できるようになってきました。売りたいと考えているプログラムを一方的に売りこむのではなく、我々の希望を正確に把握し、課題に即したご提案を熱心に考えてくださる御社の姿勢に、心から信頼しています。すごく助かっています。

人材育成にかける思い


岩崎:
それでは最後に人材育成にかける思いを一言お願いします。

北崎:
新入社員に限りませんが、まずは会社を理解してもらうことから始めるようにしています。どのような歴史を持ち、どのような事業上の特徴があり、どんな企業風土の会社なのか。日本農薬という本をじっくり読むようにして、理解を促していきたい。その上で、自分の配属された部門、担当する業務の役割といった仕事の理解を深めてもらいます。会社を理解し、仕事を理解して初めて会社が自分に寄せる期待も理解できますし、将来自分のなりたい「目指すべき像」も見えてくると考えます。高いポテンシャルを持った人たちですから、それが発揮できるように、職場環境改善と、キャリア開発の支援をしていきたいと思っています。それでは最後に人材育成にかける思いを一言お願いします。

岩崎:
一番大事なところですね。会社への思いというか、愛着というか。

江原:
研究部門も生産部門も販売部門もあって、またマーケティング部門や海外部門もあるという意味では、働く場面はとても豊富にあります。一人一人が個性を活かしながら色々な仕事を経験し、失敗も糧にしながら個々の可能性を開拓できるような環境をもっともっと作っていきたい。モチベーションを高く維持し、やりがいを実感し、多様性と変化への挑戦を尊重し、会社と個人の共栄を信じながら、一歩一歩着実に成長できる環境を提供するのが人事部の役割だと思います。具体的な場とかチャンスを、できるだけ形として作っていき、人材育成に貢献したいと考えています。

岩崎:
会社への思いはしっかりと維持しながら、かつ多様性もある組織。すばらしいですね。業界の競争環境が大きく変化する中、会社への強い愛着をもったベテランを活かしつつ、新たな人材の成長をサポートしたいという、人事部の皆様の強い思いを感じ取ることができました。「メンター育成による若年層の即戦力化を通じ、変化に対し学び行動する風土をはぐくむ」というのが今回の取組のテーマといえるのではないでしょうか。本日はどうもありがとうございました。